カテゴリー別記事: ぞうき林

雨乞いの季節

 梅雨入りからあすで3週間になるが、まとまった雨が降らない。桐生市の6月の降水量は平年の半分程度で、農作物などへの影響も懸念される。この傾向は渡良瀬川上流域も同様で、草木ダム貯水量の減少に伴い、23日から渡良瀬川からの10%取水制限が始まった▼同ダム流域の6月の降水量は20日までで43ミリと平年の5分の1程度だったが、21日に73ミリの降雨があり、貯水量は一時的に取水制限前まで回復したが、その後はまとまった雨に恵まれず再び減り続けている。ちなみに27日午前0時時点の貯水率は55%(平年の86%)まで低下している▼この減り方は、都市用水40%、農業用水60%と過去最大の取水制限となった21年前(1996年)に似ている。6月下旬から再び減り続け、8月にはみどり市大間々町高津戸地区で1週間以上も断水し、給水車が出動して急場をしのいだが、水洗トイレや洗濯機、シャワーが使えず、体調不良を訴える人も出たほか、畑や水田も干害に見舞われた▼気象庁は26日、7月上旬は一部を除いて全国的に気温が平年よりかなり高くなるとして異常天候早期警戒情報を発表した。悪夢のような事態が再来しないことを祈り、節水を心がけたい。(

厳しい世界

 桐生第一高校出身のプロ野球選手、オリックスの小島脩平選手が24日、プロ初本塁打を放った。春と夏の2回、甲子園取材の機会を与えてもらった者としてうれしいニュースだった▼初めて取材したのはもう13年も前。今季打撃が開花し、中日の正捕手争いの1番手に再び名乗りを上げた松井雅人捕手とは同級生。2人は1年生のころから試合に出場し、能力の高さを示していた▼高校卒業後は取材する機会はなかったが、桐一に進学した弟などから、変わらぬ野球への情熱と練習熱心すぎるエピソードを伝え聞き、大学、社会人を経てドラフトで指名をされた時も当然に感じた▼だが、どれほど真面目に練習しようとも1軍定着すら難しい厳しい世界。小島選手は6年目、松井捕手は8年目。「引退」の文字がちらつき始める中、この2人の活躍は本当にうれしい▼この日、対戦相手のロッテには藤岡貴裕投手が2軍から昇格していた。楽天のルシアノ・フェルナンド選手もそうだが、現在、プロにいる桐一出身者はみな最終学年での夏の甲子園出場を逃している▼夏の大会の勝敗は個々の実力を足しただけでは計れないものがある。今年の開幕は7月8日。どんな熱戦が待っているのだろう。(

研ぎの効能

 刃物の店で取材をした後、砥石を一つ購入した。店主から研ぎ方を教わる。砥石に水分を含ませ、利き腕の右手で柄を持ち、刃を45度傾けて研ぐ。右手でコントロールし、左手は刃の上に添えるだけ▼均等に研いだら、包丁を裏返し、今度は刃を90度の角度で当てて研ぐ。刃を立てれば先端が丸みを帯びてしまい、切れ味が出ない。薄い角度でできるだけ丁寧に、一定のリズムを刻む▼そんな模範演技を脳裏に焼き付け、持ち帰った砥石で再現してみる。しばらく研いでいると、刃の表面にこまやかな線がうっすらと刻まれ、銀色の輝きがよみがえってくる。二つの面を研ぎ終え、夏野菜に刃を当てる▼トマトの表面にすうっと刃が入り、きれいな断面があらわれた。カットするたびに、暮らしの中で抱えていたストレスが浄化されていくようで心地がいい。包丁の切れ味ひとつでこんなに気分が変わるものかと驚いた▼店主によれば、預かった包丁は、粗削りから仕上げの磨きまで、6段階もの工程を踏んで研ぎ込むのだという。こちらはわずか1工程。しっかり仕上げたいのならプロに頼むのが一番だが、自分で磨くのもまた楽しい。ものへの愛着を深めつつ、きょうも夏野菜をいただく。(

不審者と疑う前に

 「防犯メールで不審者情報が出るたびに、うちの子ではないだろうかと、ヒヤッとしちゃうのよね」―。桐生市内で3人の子を育てている母親(49)は、複雑な笑顔を浮かべながらそうつぶやいた▼子育て中の親なら誰しも抱く不安だが、少し違う。自分の子が被害に遭ったのではないかと心配するのではなく、加害者になってしまうことを恐れているのだ▼その母親には自閉症の20代の息子がいる。ある日、スーパーで泣いている女児がいたので息子君が近寄って立っていたら、不審者扱いされそうになったという▼そんな息子君がふらっと散歩に出て、路上で女児に接触しようものなら、不審者として通報される事態になりかねない。不審者メールを受信してその母親がまず気にするのは「男の特徴」だという。その日の息子君の服装を想像し、違えば一安心▼児童の見守り活動をしていた元保護者会長が女児殺害の容疑で逮捕される事件が起きたこともあり、子どもの周囲への警戒感はより強まっている。だが、路上でニコニコしている人がいるだけで不審者扱いするような風潮は地域としても息苦しいし、冤罪の恐れもある▼被害者意識だけでなく、広い視野と多様性への理解も忘れたくない。(

柔らか軟らか

 以前、脳科学の講演会で「鳥類は写真を撮ったように正確に記憶する」という話を聞いた。あまりに正確であるため、木の成長や季節変化などで状況が変わると、目の前の景色と記憶を同一のものだと認識できないという▼その点、ヒトの記憶はあいまいで、多くの人は見たままを正確に覚えられない。だからこそ、変化する状況に適応できるらしい。かっちり固まった正確性と、あいまいな柔軟性の対比がとても印象的な話だった▼また別のとき。ある植物研究者から「多くの植物は『例外』という柔軟性に富むからこそ強さがある」と聞いた。植物種ごとの標準的な特徴は、過去の研究を基に図鑑にまとめられていて、それらは貴重な記録の積み重ねだ。しかし、図鑑に当てはまらない例外が生まれる、という柔軟性こそが植物、そして生物の強さだという。加えて「例外を持たず固まりすぎると、もろい部分ができる」とも▼自然界の柔軟性は許容範囲が広く、個体差による大きさや色の違いはもちろん、種の特徴をかけ離れる場合すらある。標準と例外の持つ幅広さと、そこから生まれる多様性こそが、生き抜くために大切な部分。それぞれの柔軟性こそが生物共通の魅力なのだろう。(