カテゴリー別記事: ぞうき林

五を書く

 風の強い日が多いです。道路に思わぬものが落ちていることもあるので注意して▼足利市にある史跡足利学校。「日本最古の大学」といわれた学問どころであることから、今のシーズン、合格祈願に訪れる人も多いらしいが、そんな学校に新しい“合格アイテム”が登場した。なにかといえば入徳門から学校門の間に設置された「マンホールのふた」。全部で3枚設置する予定で、現時点で2枚は完了しているはず▼なぜ“合格アイテム”かというと「マンホールふた」は「落ちない」ということ。まあこれだけなら、そこらへんにあるマンホールふたと変わらないが、「落ちない秘密」はデザインにある。そこには中央に配置した「学」の字を取り囲むように同学校で最も著名といわれる字降松(かなふりまつ)が描かれている。マツの葉はご存じの通り▼細い葉が幾重にも重なって描かれているのだが、目を凝らすと漢数字の「五」が見つかる。指でなぞって「五を書く」ことが「合格」につながるとの願いも込めて、同市職員がデザインした。ほかにも開運大吉や学業成就を表す「卦(け)」なども描かれていて、見ているだけでも楽しい。合格したいみなさん。足を運んで五を書いてみてはいかが。(

技術と表現

 取材先で箏曲家の話を聞いた。筝を弾くどころか、触れたことさえない身である。邦楽を耳にする機会はもちろんあるが、楽器に触れるチャンスが過去にどれだけあったのだろう。思い返してもそれほど多くはなさそうだ▼邦楽に限らない。ドラムセットを叩いたこともなければ、トランペットやバイオリンで音を出したこともない。オルガンやギターならば義務教育の授業で習ったか。リコーダー、ハーモニカ、大太鼓、シンバル…。楽器体験は限られている▼そういえば油絵の具で絵を描いたこともない。岩絵の具なんてさらに遠い。美術館で目にするエッチング、リトグラフ、ドライポイントといった技法にも触れたことはないし、試してみようと思ったこともない。名前だけは知っているし、何となく理屈はわかる。考えてみれば、そんなことばかりだ▼体験の機会があることは大事で、先述の箏曲家も教育機関などに働きかけ、若者が楽器に触れる体験を増やそうと努めている。表現したい何かが初めにあるとは限らない。道具に触れることを通じて、表現したいものが生まれてくる。むしろそちらの方が自然か▼体験のチャンスを逃さずつかまえられるよう、柔軟に構えていたい。(け)

命は問い続ける

 「明子がなぜ自殺したのか、その理由を知りたい。ただそれだけだった」。桐生市立新里東小6年だった上村明子さんが2010年に自宅で首をつった。学校でのいじめが原因ではないかと訴えた肉親の、6年に及ぶ法廷闘争が17日、終わった▼いじめと学校の対応の不備を問うて桐生市と県に損害賠償を求めた訴訟は、市と県が対応の不備を謝罪し「解決金」150万円を払う条件で和解。いじめの加害者として元同級生らを訴えた訴訟は、元同級生が謝罪の意思を示したことで和解した▼自殺に対する死亡見舞金2800万円の支払いを求めた訴訟は学校の災害共済を担う日本スポーツ振興センターが見舞金全額を払うことで和解。親の訴えを司法が全面的に認める形で決着した▼代理人を務めた池末登志博弁護士は「いじめが自殺の原因だったとやっと公に認められた。これだけ長引いたのは、市側が『いじめが自殺の原因ではない』との立場に固執したのが原因だ」と、市側の姿勢を批判した。桐生で起きたこの事件は今後、どこかで「いじめと自殺」の問題が起きるたびに判例となり、教訓となる▼幼い命を守るために、学校や行政は何をすべきか。明子さんは12歳のまま、永遠に問い続ける。(成)

春のきざし

 晴れたある日、風は冷たいけれど日差しがじんわり。休耕田からはクルルクルルクルルと大合唱が聞こえる。ヤマアカガエルが命を懸けて雌を呼んでいた。また別の日。星が瞬いて、しんとした夜だった。突然、どたんばたんとトタン屋根をたたいて、なああなああと声が響く。町をゆくネコもまた、誰かを呼んでいた▼季節がうつりゆくなあ、なんてしみじみして、はっとした。支度をしなきゃいけない▼とはいえ、洋服を出すのでもなく、コートや毛布をしまうでもない。それはまだ早い。「越冬さなぎ」の処遇である▼わが家には昨秋からお世話しているアゲハのさなぎが2頭いる。10月後半にさなぎになって、うまくいけば冬を乗り越えて羽化する。屋外同様に冬を経験してもらおうと寒い部屋においていて、忘れかけていたのだ。慌てて確認すれば、まだ穏やかな眠りについているようで一安心。まだ早すぎるもの▼とりあえず、いつ羽化のきざしがあってもいいように毎朝、観察することにした。少し温度の高い日があると気になって、わくわくそわそわと朝に晩に様子をうかがう。新しい季節が待ちきれないのは生き物みな同じ。私もちゃんと生き物なのだ。(並)

安全神話

 「この地域は関東平野でいちばん危ない」。そう言っても過言ではないと、講師は当たり前のように語った▼“釜石の奇跡”で知られる防災研究の第一人者、群馬大学大学院理工学府の片田敏孝教授が、先月20日に桐生市内で開いた防災講演会。「“安全神話”に首までつかっている」と指摘されてハッとした▼一昨年9月の鬼怒川決壊の豪雨災害も、雨の降り始めは渡良瀬川流域だった。積乱雲が南北に延びる線状降水帯が、たまたま山を越えて被害を免れたが、桐生は渡良瀬川と桐生川の扇状地。一歩間違えば大変なことになっていた▼水害だけでない。土砂災害警戒区域は桐生・みどり両市で1310カ所。地震も太田断層(太田市東部―桐生市南部)や大久保断層(みどり市大間々町周辺)があり、マグニチュード8程度の規模が想定される関東平野北西縁断層帯にも近い▼老朽化で建て替え検討中の桐生市役所本庁舎。同市が災害対策本部を置く施設だが、最大1メートルの洪水浸水想定区域内で、しかも非常用電源は地下1階にある。震度6強から7程度の大地震で倒壊、崩壊の危険性が高いとの耐震診断結果も先日公表された。「災害とどう向き合うか」という地域の姿勢が問われている。(針)