カテゴリー別記事: ぞうき林

練習と成果

 高校生の子どもを持つ友人と高校野球の話をした。夏の県大会でベンチ入りできる部員は20人。100人以上もの部員を抱える大所帯となれば、2割にも満たない数だ▼野球が好きで野球部に入り、2年以上も練習を積み重ねてきたのに、成果を披露する最後の機会がない。そんな3年生がどれほどいることか。「このままでいいと思うか」と友人は問う。勉強もスポーツも、積み重ねてきた努力を誰かに認めてもらいたいし、成果を自分で確かめてみたい。大会はそのための舞台でもあるはず▼なのに機会を与えられぬままスタンドからチームメートに声援を送る側に回る。自分がどうしてベンチ入りできなかったのか、ふに落ちぬまま苦しむ部員もいるはず。それでもチームのためと納得し、懸命に声を出し続ける。「美談のようだが、自分はどうしても気に掛かる」と、友人は食い下がる▼できるだけ多くの部員に出場機会が与えられるよう、ルールを変えられないのか。たとえば、部員数によっては1校から2チーム出場してもいいのではないか。出場チームが増え、大会期間が長くなるなら、開催を前倒ししてもいいではないかと、友人は続ける▼大事な問いかけのようで、考え続けてみたい。(

独り占め

 例えばアゲハの幼虫。食草は夏ミカンやユズのほか、サンショウ、キハダ、カラタチなどのミカン科。この仲間の葉は独特の匂いがあって、特にコクサギはそのまま「小臭木」である。コクサギの葉の付き方は独特で左右に2枚ずつの互生。名前が似ているクサギはクマツヅラ科。こちらも独特の匂いだがコクサギとは全く違う▼アゲハの幼虫から連想したことをたどった。今回は食草から植物方面だったが、昆虫方面へのアプローチもある。その多くが取材でかかわった人から教えてもらったもの。こちらの興味ゆえに分けてもらい蓄積してきた大切な知識だ▼先日、桐生自然観察の森で「こども自然教室」を取材した。子どもたちの興味を引き出すように、レンジャーそれぞれが持つ知識をわかりやすく工夫して伝える。その姿を見て、これまで得てきた大切な知識は、ただ分けてもらったのではなく、誰かに伝えるべく預けられていたのだと、改めて気づかされた▼教えてもらった知識がこの身に息づき、得た時期も場所もばらばらの情報と結び付いて形を成し、いつか誰かに伝えるために整えられていく。独り占めして楽しんでいいのは知識ではなく、この整理する過程だけなのだろう。(

なにげない一言

 「寄付金を託したいんですが…」。なにげない一言から始まった▼ある水曜日の夕方、本社窓口を訪れた女性の相談。動物愛護に役立ててほしいという。経営する飲食店で開いたチャリティーゴルフコンペの協賛金6万円。本社を通じて市内の動物愛護団体に託すことになった▼ふと気になったので聞いてみた。「なぜ動物愛護団体に寄付を?」。約6年前、本紙に掲載された子犬の里親募集に応募したのがきっかけだという。生まれつき目の見えないチワワの子犬の里親がいないのを知り、殺処分になる前に引き取ることを決意した▼盲目とはいえ、鼻と耳がきくので暮らしにほとんど支障はなく、すぐに家族の一員に。約1年半前に女性の母親ががんを患って以降は、不安を和らげるように常に傍らに寄り添い続けた▼今年5月に母親を亡くしたとき、脳裏に浮かんだのは愛犬への感謝の言葉。「本当にありがとう。今度は自分が恩返しする番」。女性は時折涙を浮かべながら、愛犬との6年間を振り返った(11日付1面掲載記事)▼ありふれた日常のふとした瞬間に、ちらりと顔をのぞかせる人間模様。体温が伝わってくるような出来事。地域紙ならではの視点を忘れずにいたい。(

探究心の結晶

 桐生球場の外野フェンスに、ピッチングマシンメーカーの名前が新たに加わった。発足したばかりの新法人「スポーツギア」が、地域での存在感を高めたいと広告を出した▼開発に心血を注いだ新型機は優れものだ。投手がボールを投げるときに用いる基本の指は親指、人さし指、中指の3本。マシンも同じ原理で、三つのローターの回転で球に変化を加え、ほぼ全ての変化球を投げ分ける▼仕様上の最速は160㌔だが、実は世界最速の大リーガー・チャプマン並みのスピードも動作テスト中に記録した。投球パターンをコンピューターに記憶させ、特定の投手を模すこともできる▼高校での実践練習を念頭に作られた機械だが、プロのパターンを入力すれば、憧れのピッチャーとの模擬対戦もできそう。実際、売り先にプロ球団も見据える。タブレット端末で遠隔操作できる機能はテレビで人気の「リアル野球盤」に向く気がする。用途と販路の広がりも期待が持てる▼ピッチングマシンにIT(情報技術)をいち早く導入した同社。社長らに「将来はAI(人工知能)で投げそうですね」と水を向けると、都内で開かれた人工知能展を見に行ったばかりだと笑った。探究心の強さに恐れ入った。(

情報統制

 ノーベル賞を受賞したからといって良い人かどうかは分からないが、少なくとも世界的な功績があった人、とはいえるのだろう▼中国の人権活動家でノーベル平和賞受賞者の劉暁波氏が亡くなった。伝え聞くところによると、十分な治療は受けられたとはいえず世界的に批判が集まっているが、中国政府は「内政問題」として意見をはねのけている。その後の対応も、秘密警察が同席した簡単な葬儀、埋葬せず海へ散骨、政府への感謝の言葉を述べる兄の会見には政府関係者が同席し質問を受け付けず、一部の親族にはすべてが終わった後知らされる…と、徹底した統制のもとで進められたらしい▼市場開放やら爆買いやら、経済的に自由主義的な面が拡大したと思っていたが、やはり根幹は社会主義なのだなと再認識する。何よりもそれを強く感じるのは、情報統制。人ではなく組織が優先される社会では、言いたいことも言えない、事実を知らされないということを、今回の件で改めて知らされた▼統制されるよりもたれ流す方がまだ、ましか、とは思うが、テレビのチャンネルを変える中で一瞬映る某女優の呪いのような動画を紹介するワイドショーの画面を見ると、少し自信が揺らぐ。(