カテゴリー別記事: ぞうき林

うれしい便り

 「3カ月たちましたが、順調にいっています」。喜びの報告メールに、思わず顔がほころぶ。はたして人は集まるのだろうかと、始める前は不安ばかりだった彼ら。本紙記事で最初に紹介させてもらっただけに、ひとまずホッと胸をなでおろすような思いだ▼さまざまな事情で家庭学習が難しい小中学生に学ぶ場を提供しようと、桐生地区在住の学生有志が5月から始めたボランティア学習会「スタディミーツ」。毎週木曜日午後6~9時に、桐生市本町五丁目のココトモで小中学生の学習支援をしている▼群大理工学部の女子学生3人で細々と始めたが、いつのまにか仲間は増えて今や11人の大所帯に。子どもたちも毎回10~20人が訪れる浸透ぶりだ。授業の復習や宿題をする場というのが基本姿勢で、学生は教えすぎずに子どもとの交流を大切にしている▼「桐生には大学生が多く住んでいるのに、地元の子どもたちと接する機会がない。その両者をつなぐ“懸け橋”になれたら」。同会代表の滝澤玲香さん(群大大学院修士2年)の思いは実を結びつつある▼27日には、初めての群大留学生と小中学生の交流会も開催。取材も兼ねて彼らの顔を見に行こうと思っている。(

夏の終わり

 雨ばかり降って、あまり暑くもなく、夏らしからぬ夏休みが、間もなく終わる。天気はぐずついていたけれど、それはそれで楽しく充実した毎日を過ごしたんだろう。うらやましい▼今年は自然観察イベントの取材に出かける機会が多かった。植物や昆虫、カエルに鳥類。見つけるたびに歓声を上げ、目を見開いて、臆さず向き合う子どもの姿にたくさん出会った▼ある観察会を取材した時のこと。主催者があいさつで言った。「自分で自分の行動をきちんと管理してくださいね」。フィールドは、でこぼこして穴があるかもしれないし、沼地では足を取られるかもしれない。毒のある生き物だっている。そういう場で最終的にその身を守るのは自分次第だと、まだ幼い子どもたちにも伝えていた▼もちろん、フィールド内は安全に配慮して整備の手が入っているし、危険な生き物を驚かせないよう、事前に注意を呼びかける。スタッフは慎重に準備をしてイベントに臨む。だけど、いくら周りが安全に配慮しても、本人に意識がなければ台無しだ▼生き物への愛着や生命への畏敬、生態系の理。年齢に関係なく自然に学ぶことは数多くあるけれど、「自分自身の行動」もまたその一つ。(

ベトナムの旅

 ベトナムを旅した。日本列島から九州を除いたほどの面積に世界12位の人口9000万人を擁し、桐生も含め多くの日本企業がビジネス拠点を構える新興著しい国だ▼北部のハノイと南部のホーチミンの両市を訪れたが、やはり目につくのはおびただしい数のバイク。川の流れのように押し寄せるバイクは3人乗り4人乗りが当たり前。露店ごと背負って走るバイクもいる▼アジアの大都市はどこも似ているが、とにかくクラクションの音がすごい。当地のバイクの7割がホンダ製で、そのホーンの大半がミツバ製だ。国中に充満しているあのけたたましい音も、そう考えると親しみがわく▼圧倒的な交通量なのに、なぜか衝突しない。その理由をミツバ現地法人の近藤社長が教えてくれた。いわく、当地の交通は「あうんの呼吸」と「鼻先ルール」で成り立っている。バイクでも車でも歩行者でも、一瞬でも早く鼻先をかけたほうが優先。バイクと車で激流の道路を徒歩で横切る“命がけ”の体験をしたが、なぜか渡れた▼稲作文化や村落共同体を基盤とし、素朴で寛容、融通無碍な民草が、超大国の横暴に抵抗し撃退した悲痛な歴史も秘めている。アジアの深さを改めて感じた旅だった.

幼児番組

 気付くと、ふと口ずさんでいる。「オールディーズ」といわれる、米国の古いポップ・ロック。だいたい1950~60年代なので、まだ生まれていないか生まれたか、その前後。なのに無意識に口ずさむ▼CMソングとして今も使われていたりするので耳にする機会はあるが、ここまでなじんだ最初は何だったかと思う。心当たりを探ってみれば、幼児向け番組に行き着いた▼小さいころ、テレビは幼児番組がたくさんあった。「カリキュラマシーン」に「ピンポンパン」「ロンパールーム」…。中でも「ポンキッキ」はよく見ていたのだが、改めて思い返すとこの番組、和洋問わず名曲と呼ばれるものを、特に説明もなく、ふんだんに使っていた▼コニー・フランシス「カラーに口紅」、コーデッツ「ロリポップ」、ビートルズ「プリーズプリーズミー」、ドアーズ「ハートに火を付けて」…。イントロだけ、ことさら強調するでもなかったので、大人になってようやく分かる曲の数々▼小さいころから知らず知らずのうちに“本物”に触れてきたのだなあと思う。幼児番組でも手を抜かない、いや幼児番組だからこそ本物を使う。粋な作り手だなと思う▼最近のテレビ番組の“やっつけ仕事”感を見るにつけ。(

歌舞伎の安吾

 安吾がついに、歌舞伎になった。歌舞伎座8月第3部が「野田版 桜の森の満開の下」なのだ。発表から70年、映画で演劇で朗読でダンスでとさまざま取り組まれてきたが「坂口安吾の生まれ変わり」を自称する野田秀樹の作・演出歌舞伎とあっては見逃せない▼1989年夢の遊眠社が初演した「贋作 桜の森の満開の下」は、桐生時代のもうひとつの代表的幻想譚「夜長姫と耳男」の登場人物が動き「安吾の新日本地理 飛騨・高山の抹殺」も背景にある。歌舞伎化は「研辰の討たれ」など3作を共にした勘三郎の念願でもあったという▼さて、桜散る鬼どもの宴は耳男に勘九郎、夜長姫の七之助は当然として、オオアマ染五郎、マナコ猿弥、ヒダの王扇雀、エンマ彌十郎、赤名人亀蔵、ハンニャ巳之助など適役ぞろい、特に女奴隷エナコ/ヘンナコ芝のぶが妖し美し。野田流の所作と言葉遊びで戯曲は戯作。80年代のネタも興趣、衣装も音楽も見事だった▼それにしても。チャチな人間世界をもたせるに、空が落ちてこないように、救いようのない孤独そのものになって。桜の枝を捧げた鬼の行進を見送る、耳のない男。2度のカーテンコールで我に返る。「シネマ歌舞伎」化も待たれる。(