カテゴリー別記事: ぞうき林

人間のおしごと

 車に乗って目が覚めたら目的地。そんな世界がすぐ目の前に近づいているようだ▼運転席に人が乗っていなくても走行ができる「完全自動運転車」の開発を目指す群馬大学では学内ベンチャー企業で研究に取り組み、2019年度には無人化の実証実験に挑戦するという▼記者が社会人になったころ、車はクラッチを踏み、シフトレバーを操作するマニュアル車が主流だった。数年後、オートマ車が当たり前となり、教習所で苦しんだ者としては「何だかな」と思ったら、今度はハンドルさえ持たなくてもいい時代が来る▼先日、ラジオで排泄のタイミングを事前に感知する装置を開発した会社があると知った。すでに介護施設などでは導入され、来年以降は個人向けの販売も予定されている。今後、介護ロボットと組み合わせれば、介護を必要とする人にとっても介護を提供する人にとっても、負担の軽減に役立ちそうだ▼少子高齢化が進む日本。AI(人工知能)を使った技術は“買い物弱者”“人手不足”などの今日的課題を解決するすべを持つ。その存在に希望を感じる一方、不安も湧いてくる▼人間にしかできない仕事もあるというが、それは本当だろうか。(

「鍋を囲んで」

 寒くなり、鍋物がおいしい季節になった。一家だんらんで鍋を囲むと会話も弾み、体も温まる。具材で海のなべ、山のなべなど味もいろいろ。汁に溶けだした栄養素もうま味も、たっぷりとれる▼取材で遺跡を見る機会がある。縄文時代の住居跡だ。家の真ん中には石で囲まれた炉があり、煮炊きの跡がある。こたつの上に置かれたこんろのように見え、「鍋だ!」と思ったのは単なる直感。だが鍋物は日本の料理で、ルーツは縄文時代にさかのぼるとも言われる。1万年以上も昔、われわれの祖先は土鍋のような趣の縄文土器で煮込んだ鍋を囲み、温かな幸せを感じていたのだろうか▼人類進化でいうと縄文人は現代人と同じく、4万年前にアフリカで生まれた現生人類で、骨格や脳の大きさはほぼ変わらない。電子機器を使いこなす現代人と同じ能力がすでに縄文人には備わっていた。縄文人の残した繊細な工芸品を見ると、今のわれわれも心打たれる▼大自然での日々の暮らしの中では全く必要がない、大量エネルギーを生み出す科学技術や138億年にわたる宇宙の歴史を研究する能力が、すでに4万年より前の人類進化の過程で与えられていたのかと思うと、つくづく不思議だ。(

水路の研究

 法政大学デザイン工学研究科の堀尾作人さんは昨年度まで、江戸期から明治期にかけて発展した桐生の織物産業について、水力利用の視点から見つめ直す作業に挑んだ。その成果は論文となり、この夏、建築学会の論文集に掲載された▼タイトルは「産業革命前における水力産業都市・桐生の形成」。渡良瀬川の水を引いた赤岩用水と、桐生川から取水した大堰用水に焦点を当て、それぞれの水系のどこに、どんな業種の集積があったのか調査してまとめている。桐生を訪れ、多くの人に話を聞き、資料や文献を調べ、考察を加えた結果だ▼明治初期の桐生は二つの用水をフル活用し、「水力利用型の織物産業都市として発展してきた」。まとめの中でそう触れながら堀尾さんは水利の視点を踏まえて今ある社会的資産をとらえ直す必要性を指摘している。同時に、地域に存在する小さな自然エネルギー源の利用法についても、考えるきっかけになるはずだと▼戦後、水路は地下溝となり、市街地からは水辺が消えた。いま水路は自然エネルギー源として、人の心の安らぎとして、再び活用が求められている。研究者から投げられたメッセージにどう反応したらよいのか。私たちが試されているようだ。(

平成の大久保事件

 「邑楽町らしい」。同僚記者がつかんだ情報に背筋が凍ったのは6日の朝だった。神奈川県座間市のアパートで男女9人の遺体が見つかった事件。被害者に東毛地域の女子高生がいるとの情報を受け、にわかに当事者意識が高まった▼9人殺害を供述しているという白石容疑者は、「死にたい」とつぶやく女子を言葉巧みに誘い、犯行に及んだとされる。全貌はまだ不明だが、被害者の大半が若い女性という状況や人数、猟奇性の点で、大久保清事件を思い起こす人も少なくない▼1971年、群馬県内で約2カ月の間に若い女性8人を殺害し山林に埋めた大久保元死刑囚(76年死刑執行、当時41歳)は、画家や中学教諭などと偽っては100人以上の女性に声をかけていたといい、桐生市内の喫茶店で口説かれた女性も犠牲となった。この地域にとっても忌まわしい記憶だ▼大久保は精神鑑定で「精神病ではないが発揚性、自己顕示性、無情性を主徴とする異常性格で、性的、色情的昂進を伴う」とされた。報道で伝わる限り、座間市の事件と重なる点も多い気がする▼犯罪史上に新たな記録を残すだろう座間事件。大久保事件と同い年の身としても、女子高生の娘を持つ父親としても、人ごとではない。(

14年前の忘れ物

 あのときと同じ興奮が、試合前の会場を包む。王者に食らいつく挑戦者。「歴史を変える」という意気込み。体をぶつけ合う競技ゆえの緊張感…。全国高校ラグビー県大会決勝で、明和県央に挑む桐生第一の姿を、祈るような思いで撮影し続けた▼「あのとき」とは今から14年前、2003年の同大会決勝戦。19連覇を狙う王者の東農大二に、全国初出場を目指す樹徳が挑んだ。4度もリードが入れ替わる激戦の末、樹徳が終了間際に逆転トライを挙げ、桐生勢46年ぶりの全国出場を決めた▼待ちに待ったノーサイドの瞬間。こぶしを突き上げて雄たけびを上げ、喜びを爆発させた桐生っ子たち。18年続いた農二の連覇に終止符を打ち、桐生勢の新たな歴史を刻んだ彼らの雄姿は、今でもくっきりと脳裏に焼き付いている▼そして、きょうの決勝戦。桐一はまだ経験不足だったのか、初の全国大会には届かなかった。桐一フィフティーンの多くは、地元ラグビースクールでの活躍を、幼いころから見てきた子ばかり。全国大会の同行取材を夢見ていたのだが…▼14年前の心残りは、別の取材で全国大会の同行取材がかなわなかったこと。来年こそ彼らが念願を果たしてくれると信じている。(