カテゴリー別記事: ぞうき林

紙の世界

 いまの子どもにとってインターネットのない生活は「歴史」の勉強になってしまうのだろうか▼桐生第一高校で行われた特別授業「ストーリー漫画入門」の取材に訪れた。2012年に始まった授業は何度か取材し、講師で漫画家の三友恒平さんの話を聞いてきたが、「電子コミック」の勢いには驚かされる▼昨年度の漫画の売り上げは4500億円。うち雑誌は1500億円で20年前のピーク時の半分となる一方、電子コミックは1000億円を稼ぐ。「漫画家としてデビューしたいなら、ネットも視野に入れて考えてほしい」と三友さんはアドバイスした▼雑誌の発売日を心待ちにした世代でもいま、単行本は紙の本を買うが、新作との出会いの場はもっぱら電子コミックになっている。ネットのある世界に生まれた子どもたちにすればなおさらだろう▼先行する音楽業界。みんなが知っているヒット曲は少なくなり、細分化された世界ごとにヒット曲が生まれる。それでも、さまざまな壁を越えられるのがネットのよいところ。自分の青春時代の曲を演奏する若者と出会い、うれしくなる▼紙の世界でも壁が崩れると考えるべきか。新聞の世界には小さい壁が次々生まれている気がするが。(

イメージを変える

 甘酒が美容や健康にいいので最近は20~40代の女性にも飲まれていると情報番組などで知った。甘酒には冬のイメージがあるが、ビタミンなど栄養豊富で江戸時代には夏場の栄養補給として飲まれ、夏の季語にもなったという話。近所の小売店へ行くと、手軽なストロー付きの紙パックのもので3種類ほどあり、ゆず風味のものもあった。共通点は原料が酒かすではなく米こうじであること。どれもアルコール0%、砂糖不使用だった▼飲んだ個人的な感想では「甘さを抑えたヨーグルト飲料」といった感じで意外とおいしい。実は子どもの頃から甘酒は苦手だったのだが、味とイメージが変わったなと思った▼夏といえば甘酒よりもビールか。これも近年、味とイメージが変わったと感じるものの一つだ。売り場では缶のデザインでさわやかなブルーやグリーンが目につくようになった。ベルギーの製法などで造られているそうで、豊かな香りに加えハーブも使われており、苦みはなくフルーティー。元来の愛好者には物足りないかもしれないが、買う側の選択肢は広がった▼既成のイメージをちょっと変えることでバラエティー豊かな世界を見せる。ほかの分野でも応用できそうだ。(

双眼鏡事情

 鳥の声音に聞きほれ、車を止めて小道を歩く。小さな双眼鏡を手に鳴き声の主を探す。繁茂する緑にまぎれて、ウグイスの姿をようやく見つけたら、すぐ逃げられた。のん気な人間が来たものよと、あちらからはおそらく丸見えなのだろう▼夕方のことである。双眼鏡をのぞきながら、さて、ここで警察官が自分のことを見かけたら、どんな対応になるのかと、頭をよぎった。双眼鏡を手にした男に対し、「何をしているのですか」と話しかける。「鳥を眺めています」「どんな鳥なの」「ウグイスです」「それはそれは」▼と、今ならそんなところ。散歩する人どうしのあいさつ程度か。でも、今後は変わってゆくかもしれない。国会法務委員会の大臣答弁で、共謀罪の準備行為を判断する一例に、双眼鏡の所持が挙がった。とんちんかんな答弁だと一笑に付したいが、残した印象は強い▼組織犯罪処罰法の改正案が可決濃厚だ。成立したら、くだんの会話も職務質問に早変わりするのか。通りすがりの人に「双眼鏡を持った怪しい人がいる」と、通報されたりするのか。「そんな大げさな」と笑ってすませたいのだが、最悪の事態を想定するのが大震災後の教訓▼鳥を眺める穏やかな時間くらい、確保したいもの。(

スマホ老眼

 「ずいぶん遠いねえ」「そんなに離すのか?」と、笑われることが多くなった。老眼である▼最初に感じたのは文庫本だった。目と文字の距離感は長年の感覚が腕に染みついているものだが、それがどうも狂ってきて、腕がへんに疲れた。遠くから近くに、その逆も、焦点を移すのに時間がかかるようにもなった▼視力が良くない人には「今さら何を言ってるんだ」と一笑される話だと思うが、これまで「見る」という行為に苦労したことがなかったので、近眼の方々のご苦労が少し分かった気もする▼ある日のみどり市議会で数えてみると、市長ら執行部の25人と市議20人の計45人のうち、メガネをしていないのはわずか4人。実に91%の人がメガネをしている。世の中そういうものなのか▼犯人はスマホに違いない。3年ほど前に使い始めた途端、老眼が一気に進んだ実感がある。スマホにしてから、入手できる情報量やちょっとした検索の速度は向上したが、その代わりに目が悪くなった。技術の進歩が肉体を退化させる典型的な現象が自分に起きている▼仕方なく最近、老眼鏡を買った。文字が鮮明に見えて楽だが、メガネを持ち歩くことが習慣になっておらず、きょうも自宅に忘れた。(

お邪魔します

 「自分の場所から動かないで『いつでも来てください』なんて言ってもだめなんだよね」。これは桐生市老人クラブ連合会理事の一人から聞いた言葉。活動のうえで心がけているという。「『お邪魔していいですか』って出向かないと人とのつながりはできないよ」。新規会員の開拓も地区同士の結びつきも、大切なことは同じ▼2005年、桐生・新里・黒保根の1市2村が合併し、その動きにならった団体があって、多くは旧桐生市内に取りまとめ機関を置いた。けれど合併前から続くそれぞれの団体は足場をきっちり固めて独自の活動してきて、それを「一つにします」というのは、難しい部分も多かったろう▼だからこそ、前述の心がけである。旧桐生市内の各地区はもちろん、新里・黒保根地区との連携強化は特に重点を置く。もともと別個だった組織を結び付けようと「とにかく出かけていく」。かしこまった場でなくていい。顔を合わせて話し、同じ釜の飯を食う。ただそれだけ。だけど実行するにはちょっとの手間としっかりした思いが必要となる▼合併から10年あまり。それぞれの地域特性、風習をそのままに生かしながら、今も新しいつながりを模索し続ける人たちがいるのだ。(