カテゴリー別記事: ぞうき林

いつか本場で

 ほら貝の音色が好きだ。遠くまで響き渡る重低音。何かが始まる期待感がいい▼山形県庄内地方で駆け出し記者をしていたころ、羽黒山の山伏とともに、ほら貝は身近な存在だった。毎年師走が近づくと、山伏がほら貝を吹きながら、庄内中の家々を回って寄付を募る▼ほら貝の音色を合図に玄関を開けると、山伏装束に高下駄を履いた山伏がいる。非日常的な光景に最初は面食らったが、子どものころ学校で見たお気に入りの演劇が山伏の物語だったのを思い出す。その登場人物になったようで待ち遠しかった▼久しぶりにほら貝の音色を聞いたのは2年前。東日本大震災で桐生市に避難した人たちの中に、福島県南相馬市の伝統行事「相馬野馬追」のほら貝奏者がいた。迫力ある音色を聞かせてもらうたびに、合戦場を駆ける騎馬武者たちが脳裏に浮かんだ▼先週末には、みどり市大間々町浅原の寺院で、山伏の吹くほら貝の音色を耳にした。奈良県吉野山の霊場から訪れた修験者の護摩焚きと火渡り修行。山々に響き渡る音色が厳かな気持ちを呼び起こす▼羽黒山や吉野山の霊場、相馬野馬追の合戦場…。本場で響き渡るほら貝の音色を、いつか聞いてみたいと思っている。(針)

東京時間

 最近は東京へ行くたびに、周囲の早足に追いつけず、迷路のような鉄道の交わりに右往左往し、人の多さや店の数に圧倒され、流れに乗れずに戸惑っている自分が見える▼電車やバスは分刻みでくる。だから慌てなくいいはずなのに、分刻みだから少しでも早いものに乗ろうとするのが、人間の心理かもしれないなと思う▼惑わされるな、自分のペースでと、頭では割り切ってみても、大海原に放り出されるとそんな基準など、実はどこにもない中途半端さにすぐ気づく。結局、何だかんだいいながら思考を放棄し、流れに乗ってふっとどこかにしがみつくのだ▼正午を過ぎて、レストラン街にいた。時間どおりの昼食をとる必要はないし、並んで待たなくてもいいのだが、座り心地のよさそうな椅子だなと、あえてこじつけ、腰をかける▼すると、その椅子の感触は確かによく、眠くなるころに順番が来て、店内に招き入れられた。そして、どうってことのない注文をし、食べて、出てきた。店内の椅子は何とも座り心地が悪かった▼寄ってきた客を逃がさないようにして、長居もさせないようにする。東京時間はさりげないようで、やっぱり巧みに仕組まれている。(葉)

キノピーの輪

 桐生市のマスコットキャラクター「キノピー」の人気が高まっている。11日付本紙でも取り上げたが、キャラクターグッズも増え続けている▼「ゆるキャラ」ブームの中、かなり後発の登場となったキノピー。正直、誕生したときはタイミング的に遅すぎるのではないのかと思わなくもなかったのだが、ハンディをものともせず、じわじわと浸透してきた▼日本百貨店協会主催の「ご当地キャラ総選挙」で激戦の関東地区予備選挙を勝ち抜き、上位6体に入った実力は本物。後発でものし上がれたのは、まさに「キャラが立っている」からに他ならない。現在は決勝進出を懸け、地区予選を戦っている最中だ▼ライバルは同郷の先輩「ぐんまちゃん」ほか、簡易投稿サイト・ツイッターのつぶやきで絶大な人気を誇る千葉県船橋市の非公認キャラ「ふなっしー」など強敵ぞろい。30日現在、キノピーは3位。首位ふなっしーとは倍のポイント差をつけられている▼地区予選は来月16日まで。公式ホームページ上でも受け付けているが、百貨店で投票すると1票で5ポイント入る。記者は高崎市のスズラン百貨店で投票してきました。関心のある方はぜひ清き一票を。(悠)

すごしやすい

 暑くもなく、寒くもない。5月だというのに梅雨入りしたけさの天気は、一般には「すごしやすい」というのだろうけれど、何となーく、すっきりしない▼何日か前までは、暑くもあり、寒くもあった。昼間は五月晴れの強い太陽に照らされて、「夏日」「真夏日」と、気温は日に日に今年最高を更新していく勢い。じんわり汗ばんだ肌をちりちり焼く日差しが、なんとも気持ちいい。一方、夜はというと、ぐっと下がり、タオルケットだけじゃ寒いなーと、足元に丸まっていた毛布を引っ張り上げて、くるまる。ぬくぬくして気持ちいい。まあ要するに、これもまた、「すごしやすい」▼平均すれば、気温は前者も後者も、同じくらいなのかもしれない。ただ、その幅は、前者は3〜5度くらいで、後者は10度以上。一定の温度の中にずっといるのと、上下の幅がある中にいるのと、どちらが過ごしやすいか好みの分かれるところではあるけれども…記者は後者を選ぶなあ▼暑くもあり、寒くもある。それは、多様であるということ。変化に富んでいるということ。年齢とともに衰えつつある感覚に、刺激を与えてくれるということ▼気温なんかよりもそれこそが、「すごしやすい」ということなのかもしれない。(篤)

いざ、鎌倉

 桐生、みどり両市の小学6年生が次々と鎌倉を訪れている。幕府の一大事にはせ参じた時代とは違い、いまはいたって平和な、修学旅行。社会で鎌倉時代を勉強する時期、「武家の古都」を体で味わう機会になっているだろうか▼その「鎌倉」、地元自治体は世界文化遺産への推薦を取り下げるよう政府に求めた。来月プノンペンで開かれるユネスコ世界遺産委員会を前に、正式審議を免れる形だ。諮問機関が「不記載」を勧告した以上、逆転は困難。しかし撤退ではなく再挑戦のためという▼世界遺産登録の国内暫定リストのうち、鎌倉は彦根城と並んで20年以上の古株だ。「不記載が適当」。日本政府が推薦した文化遺産でこの最低の評価は初めてで、正式に否定されると再推薦できなくなる。石見銀山や平泉よりずっと厳しい判断なのだ▼国内では十分に有名な観光地。来日した外国人ビジネスマンをまず接待するのにも好都合とか。次に控える「富岡製糸場と絹産業遺産群」は地味ながら堅実な近代化遺産で、鎌倉の退避に安堵していることだろう▼やや猫背ながら美男におわす、謎の多い大仏さんや、古都保存法の立役者となった鎌倉文士の旧宅など、ふらりと訪ねてみたくなった。(流)