カテゴリー別記事: ぞうき林

寒の時期

 朝方の厳しい冷え込みが昼の日差しでゆるんで、太陽の傾きとともにまた寒くなっていく。寒の時期の今ごろは、毎日そんな感じなわけだが、たまーに、夕方になってもさほど寒くならない日がある▼きのうなんかはちょうどそんな日で、暖かいなあと思ったが、いや暖かいわけじゃあないな、と思い直した。真冬仕様のモッコモコの服を着ているから、寒さが少しゆるんだだけで暖かく感じる。むしろ「温かい」の字がふさわしい▼この時期、寒さがゆるむと、土のにおいというか春のにおいがする。そんな期待で空気を吸い込んでみたら、何か違った。なんというか、薬っぽい。かいだことのある、思い当たるにおいなのだが、なんだっけかなあ…▼ああ、さっき差した目薬のにおいだ。目に差したのに、なんでにおいを感じるのだろう。鼻と口がつながっているのは知ってるけれど、目と鼻もつながっているのか▼そういえば「目から鼻へ抜ける」ということわざがある。「抜け目ない、機転が利く、利口なこと」という意味。調べてみたらその語源は、奈良の大仏様の建立にまでさかのぼるとか▼抜け目ない目薬って何だろうと思いつつ、とりあえず一つ、利口にはなった。(篤)

近代草創の味

 一昨年春に3本並んでいた「鮭」を、今回は2本、宇都宮で見た。前回は東京芸大美術館で開催された「近代洋画の開拓者 高橋由一」展、栃木県立美術館は「日本近代洋画への道〜山岡コレクションと高橋由一の名品を中心に〜」。迫真の描写力に、またも新巻鮭の切り身の味が口中に沸いた▼宇都宮には慶応から明治前期、西洋油絵と格闘した絵師たちの真摯な作品が集結していた。来日した西洋人画家が描いた日本の景色や風俗は、やはり視点が違う。やがて海外留学組が印象派風を持ち帰りアカデミズムを席巻、草創期は混沌期である▼半身を削がれた「鮭」も「丁髷姿の自画像」も、ヤンマーの創業者が収集し笠間日動美術館に所蔵されている。由一より1歳年上の島霞谷は栃木の出身だが、その「山岡コレクション」には入っていない。写真と油絵を併走した霞谷は明治3年に早世して、遺品は妻の隆が桐生で守ってきたのだ▼半地下のような展示室の最終章は「身体の発見」。浮世絵春画を見慣れていたら、この発見には驚くだろう。しかも木下直之さんが快著「股間若衆」で仰せの通り、描かないか、隠すか、揺れは露呈する。異物を受容するささくれた味は、やはり塩辛い。(流)

凍結路面に注意

 きのうの最高気温は桐生市で14・5度と3月下旬並みの陽気となった。梅の開花も進んだことだろう。そんなことを思いながら、がらくたを車に積んで日曜受け入れ日だった清掃センターを目指した▼焼却施設から不燃物施設に回り、鉄くずや使わなくなった食器などを所定の場所に捨て、最後にタイヤチェーンの捨て場所を尋ねると、「ここに」と言われるままに床に置いた。帰り道、チェーンに助けられた1週間前のことを思い出していた▼氷瀑を求めて向かった赤城山の懐、利平茶屋森林公園まであと約500メートルという坂道でそれ以上上れなくなった。車から降りるとつるつる。雪の下の路面が凍結していたのだ。チェーンを着けようにも足が滑ってうまくいかず、中途半端な装着で急場をしのいだ。その先は安全策を取って徒歩にした▼歩きながら不安がよぎった。一つは、前日は吹雪だったので、肝心の被写体が雪に埋もれてはいまいか。もう一つは無事に帰ることができるのだろうかと。氷瀑は半分ほど顔を出し、下り坂のアイスバーンもチェーンのおかげで切り抜けることができた。が、チェーンは壊れてしまった。アイスバーンの途中だったらどうなっていたことやら。(ま)

粘り強く

 日中の寒さが幾分緩んでいるようなここ数日。花粉症持ちが「飛び始めた」と言っているがどうか▼先日、中学時代の恩師から電話があった。衆院選の区割りがなんとかならないものかという話。周知の通り、桐生市は旧桐生市地区が群馬2区、新里町と黒保根町が群馬1区に分かれている。合併前の“名残”が現在も続いている。みどり市も同じような状況にある▼かいつまんでいうと「いろいろな場面で話があわなかったり、なによりも同じ市なのに選挙区が違うのはおかしいだろ」とのこと。1票の格差是正のための区割り見直しは大きな話題としてとりあげられるが、合併に伴う区割りの見直しについてはあまり聞かない、との意見▼桐生市議会では昨年の6月定例会で「衆議院小選挙区の選挙区割りの更なる見直しを求める意見書」を可決し、国にあげた。恩師の意見のように選挙区がわかれていることで、地域住民の一体感を損なっており、まちづくりにも大きな影響を及ぼしているので、地域の実情を適切に反映する選挙実施のため早期の見直しを要望する、という内容のものだ▼問題解決の道のりは遠そうだが、粘り強く、声をあげ続けていかなければならない。(ほ)

音楽の時代

 部屋のすみに数枚のLPレコードが立てかけてあった。レコードプレーヤーは今もあるが、もう20年近く電源を入れていない。ジャケットの顔を拝もうと先日見返したら、現れたのは大滝詠一さんの「A LONG VACATION」(1981年発売)と「EACH TIME」(84年発売)▼こちらは69年生まれなので、73年に解散した「はっぴいえんど」の活動などは記憶になく、80年代のアルバムやテレビ、FMラジオで大滝さんの音楽に触れた。10代初め、アイドルなんて興味ないという顔で、友人たちと背伸びをしあっていた▼レンタルレコード店が桐生にも登場したころで、自転車に乗って、市街地のはずれからまちなかまでLPを借りに出掛けた。FMラジオの番組をカセットテープで録音する「エアチェック」も仲間うちで流行した。FM雑誌を学校に持ち寄り、お目当ての番組でかかる曲目をチェックした▼大滝さんのアルバムは、そのころ買った。次のアルバム発売はいつなのかと、あれからずっと待っていた。なのに昨年の年の瀬、突然亡くなってしまった。冥福を祈るとともに、あのころの音楽が、これほど強烈に自分の中に根付いているのかと、今さら驚いている。(け)