カテゴリー別記事: ぞうき林

人は来る

 どうして冬の風は「ぴゅーぴゅー」と音を立てて、寒さをより増幅するのだろう、なんてことを考えているこのごろ▼25日まで桐生市役所玄関ロビーで開かれているテレビアニメ「『惡の華』背景美術展」。原作は桐生市出身の漫画家・押見修造さん。背景画は桐生市を舞台にロケが行われ描かれている▼先週は桐生市市民文化会館を会場に3日間開かれたが、800人以上の人が訪れたそうだ。気になるのは市外県外からの来場者▼初日、開幕直後に取材に訪れて、受付簿をのぞくと半数以上が市外。東京都という住所もいくつかあった▼そのうちの一人、東京都から来場した女性と話をすると「この展示会を知ってから心待ちにしていた」そう。原作、アニメともこの作品のファンで「初日に見たかった」そうだ▼並んだ背景画は桐生市の風景、街並み、建物などがロトスコープという技法でかかれ、とても生々しい。市外の人の記憶にその“絵”が刻み込まれると思うと楽しい。女性は市が急いで作ったロケ地マップを片手に「これから自転車で回ろうと思います」と楽しそうに話していた▼原作あってこそだが、やはりアニメの舞台になると人は来る。それがよく分かった企画だったと思う。(ほ)

暮れの食模様

 週に1度、早朝の市場を訪ねては、フロアに並ぶ作物をながめている。年の瀬は、入荷される農作物にも特色が表れ、興味がつきない▼例えば、この時期に卸値が高騰するイチゴ。ケーキに欠かせぬ果実として洋菓子店からひっぱりだこで、聖夜までは品薄状態が続く。おまけに天候一つで色づき具合が変わり、収穫の量や時期にも影響を与える。降雪などもってのほかで、先週の「雪予報」がはずれ、胸をなでおろした人は多いはず▼年明け正月の食卓を彩るおせち料理の材料も顔をそろえ始める。雑煮に欠かせぬコマツナの入荷が増え、サトイモの一品種ヤツガシラも登場。なますに使う色白の三浦ダイコン、さらに縁起もののクワイ、レンコン、ゴボウなど、この時期らしいラインアップ▼年の変わり目は大きな節目のはずだが市場関係者の話によると最近は「止め市」から「初市」までの間も、実際の仕事は続くという。正月休みもなく、商いを続けたい店のために、食材を提供するわけだ。季節の節目に設けられた行事は、流れゆく時をとどまらせるための大事なくさび▼食品偽装の問題に注目が集まった年。信頼できる食材を購入して、自分たちで調理する。そんな年の瀬もいい。(け)

3度目の年の瀬に

 わせねでや。そんなタイトルの曲がある。宮城県の方言で「忘れないでね」という意味だそうだ。先週末に桐生市内で震災復興の現状を講演した気仙沼市在住の山内繁さん(64)が、東北人らしい控えめな口調でそっと教えてくれた▼津波に流された宮城県の島で暮らす被災者が、故郷や友への思いを書きつづった詞から生まれた。地元放送局で紹介されたのをきっかけに、多くのミュージシャン有志が協力し、加藤登紀子さんが歌い続けている▼「忘れられるのがイチバン怖いんです」。桐生での講演で山内さんは力を込めて語った。震災復興がなかなか進まない被災地の現状、五輪優先でさらに復興が後回しになる懸念…▼「五輪決定を素直に喜べなかった」と語る山内さんの言葉を笑うなかれ。五輪招致の顔だった猪瀬直樹東京都知事の辞任表明に思う。震災や原発事故での都合の悪い事実も、五輪優先の風潮で隠されてしまうのではないか。そう心配せずにはいられない▼今週、取材で桐生市近隣に避難している多くの人たちと久しぶりに再会した。さながら忘年会。年の瀬に忘れたいこともあるだろう。が、決して忘れてはいけないこともある。(針)

好況感

 「桐生の景気は本当によくなっているのかい?」。そんな質問をこのごろよく受ける。桐生信用金庫の地域産業景気動向調査で、10〜12月期の全産業業況判断指数が1993年の調査開始以来、過去最高を記録したが、その数字に自らの実感は伴わない人も少なからずいる▼指数を業況別にみれば、好況感を引っ張っているのは製造業、それに建設業。同信金の取引先590社を対象にした調査は東毛地区を主な営業エリアとするだけに、製造業は330社と過半数を占めている。自動車関連の好調が関連業種に波及している格好だ▼建設業は業種単独としても過去最高を記録した。業況のほか、売り上げや受注残、施工高、収益などの項目も良化した。好材料の一つは太陽光発電施設の建設。資材調達や工事が間に合わず、発電所の完成と稼働開始が遅れたという地元企業の話も聞いた。経営上の問題点には2割超が人手不足を挙げた▼人手不足は卸売業で6割近くに達し、サービス業も2割弱ある。不足感が新たな雇用に結びつくなら、地域経済の活性化に直結する。来年1〜3月期も好況感はほぼ横ばい。景気上昇の波がより広がりをみせるのかどうか、注目している。(悠)

面白きかな縁

 不思議な縁がつながるものだ。会田誠さんと「こたつ派」展でメジャーデビューした山口晃さん。2007年に上野の森美術館で二人展「アートで候。」を開催。それぞれの大規模個展も森美術館で、館林美術館でと相次ぎ、山口さんが小林秀雄賞を受賞すれば会田さんは安吾賞である▼両氏を二枚看板とするミヅマアートギャラリーの三潴末雄さんも安吾に関わっていた。安吾賞推薦人というだけでなく、大学生時代に坂口綱男さんの家庭教師をしていたのだ。国語担当、来るのは漫画雑誌発売日で、綱男さんは「あしたのジョー」の不条理を理解するためにカフカやカミュを読まされたとか▼哲学と一流文学、サブカルチャーやコミックが同一次元にある。その視点は小林秀雄にはなく安吾的だし、会田さん、山口さんの支援にも通底していると思う。物議を醸さないよう自粛しては芸術家ではなかろうし「面白きことも無き世を面白く」生きられない▼山口晃さんのエッセー漫画「すゞしろ日記」第二巻が羽鳥書店から出た。大判、カラー、毎月のコメント付きで「カミさん」頻出。幼少期桐生の思い出も盛られて「ムハハ」とつられてしまう。笑いすぎて腰を“炒”めたりしませぬよう。(流)