カテゴリー別記事: ぞうき林

気配の季節

 蒸し暑い夜、掃き出しの網戸の向こうから、ジージーと鳴く声がする。庭の草むらから聞こえるような、地の下から響いてくるような。あれはミミズが鳴いているのだと教えてくれたのは、だいぶ前に他界した祖母だったか▼「蚯蚓」と書いてミミズと読む。手元の漢和辞典をひくと、「蚯」の丘は、曲がっている様子を示すらしく、「蚯」は、からだがねじれた虫のこと。「蚓」の引は、ずるずるひっぱるの意味で、「蚓」は、引っ張られたように長い虫なのだそうな▼「蚯」のすぐそばに、「蛉」の字を見つけた。「蜻蛉」と書けばトンボ。「蛉」の令は、細くてきよらかの意。「蜻」のつくりも、きよらかですずしいといった意味。この季節、夏木立や水辺で見かけることの多いヤンマやサナエトンボの姿が思い浮かぶ▼先日、桐生川の川面を眺めていると、巣立ちを終えたツバメたちがえさを求めて飛び交う中、あちらこちらで幾種ものトンボを見かけた。蒸し暑さと相まって、なにやら生きものの気配濃い8月の水辺。見えない何かまで感じ取れてしまいそうな雰囲気▼そういえば祖母は、大型のトンボを総称し「おおやまとんぼ」と呼んでいた。故人の思い出がふとよみがえる、そんな季節でもある。(け)

14年ぶりの歓喜

 あの歓喜の瞬間の記憶が、懐かしくよみがえってきた。きのう決勝が行われた全国高校野球選手権大会で、前橋育英が初出場初優勝の快挙を成し遂げた。群馬県勢が深紅の大優勝旗を手にするのは1999年の桐生第一以来だ▼思えば14年前の8月、20代だった記者は初めての甲子園取材で桐一―仙台育英の2回戦から入り、3回戦の静岡、準々決勝の桐蔭学園、準決勝の樟南、そして決勝の岡山理大付戦まで5試合を取材。県勢初優勝の瞬間に立ち会う幸運を得た。あの興奮は今も忘れられないが、14年をへて県勢2度目の優勝はやはりうれしい▼2003年には桐一が再び4強まで勝ち上がり、2度目の優勝かと色めき立ったが、準決勝で常総学院に惜敗した。こうしてみると、群馬の高校野球はやはり全国でもレベルの高い激戦区だといっても過言ではあるまい▼ただ桐生勢は08年の桐一を最後に甲子園から遠ざかっている。平成に入って樹徳2回、桐一9回、桐商1回と計12回の甲子園出場を誇る桐生勢だが、5年も空いた時期はなかっただけに、少しさびしい気もする▼記者も気づけば40代。甲子園独特のあの暑さの中、2時間以上も取材できるのか、不安がよぎる年になった。(成)

夏休みの宿題に

 子どもの夏休みの宿題といえば「自由研究」。夏休みが終わろうとするこの週末に向けて「ラストスパート」なんていうお宅もあるのでは▼「そのヒントになれば」とNHK前橋が総合テレビ「ほっとぐんま640」という番組の中で「不思議!おもしろ実験室」というコーナーを放送した。今週月曜から水曜までの3回。1回が5分程度。水を入れたポリエチレンのビニール袋に鉛筆を刺しても水が漏れださないとか、発泡スチロールを溶かす力があるオレンジの皮の果汁でハンコを作ったりしてみせた▼出演したのは桐生市在住で群馬高専教授の小島昭さん(69)。女性レポーターを相手に分かりやすく実験を紹介した。一般の人に科学の面白さを伝えたり、理系離れを食い止めようと請け負ってきた「出前講座」と同じ思いで引き受けたという▼群大工学部の卒業生でもある小島さんは全国各地での水質浄化活動にも一役買っている。一見、普通のおじさんだが、実力派なのだ▼じつは桐生・みどりには動物園、大川美術館、岩宿博物館、富弘美術館など実力派の施設がいくつもある。数時間いるだけでも、その「実力」に触れることができるはずだ。残りわずかな夏休みを生かそう。(な)

天満橋対決

 こんな日が来るとは思わなかった▼甲子園の準決勝で山形代表が群馬代表と戦う。駆け出し記者時代をすごした山形県。甲子園取材も同県代表で初めて経験した。あれから十数年。群馬代表の甲子園も4回取材した。その両県代表が決勝進出をかけて戦うとは感慨深い▼自分がいたころの山形代表はとにかく弱かった。甲子園取材した2回とも大敗。準決勝どころか8強入りの経験すらなかった。あまりの不振ぶりが県議会で議論されたほどだ▼そんな時代も今や昔話かもしれない。今大会の日大山形は優勝候補の日大三、作新学院、明徳義塾を破って県勢初の夏4強入り。同じく優勝候補の樟南、横浜、常総学院を破った前橋育英と準決勝にふさわしい好ゲームを演じた。勝ち負け抜きで両校にエールを送りたい▼群馬・山形の両県代表には意外な共通点がある。宿舎がいずれも大阪・天満橋(群馬代表はホテル京阪天満橋、山形代表は大阪キャッスルホテル)にあり、直線距離でわずか200メートルしか離れていない▼“天満橋対決”は前橋育英に軍配が上がった。同校には笠懸中出身の板橋達弥君もいる。群馬県勢では1999年の桐生第一以来2度目の全国制覇に期待しよう。(針)

ホスピタリティー

 比較的最近耳にするようになった外来語に「ホスピタリティー(hospitality)」がある。英語で、訳すと「心からのおもてなし」となる▼競馬に詳しい人であれば、昔活躍したサラブレッドが思い浮かんだ人もあるいはいるかもしれない。競走馬の名に「おもてなし」とは、なかなかふるっているが、当時は今ほど浸透している言葉ではなかったから意味まで理解する人が果たしていかほどいただろう▼とまあ余談はともかく、売り文句に「心からの…」を掲げる接客業は数あれど、実感することはまれだ。上辺だけだったり、マニュアル的で通り一辺だったりすると鼻白んでしまう▼過日、夏期休暇を利用して新潟の海に赴いたのだが、その際に取った宿は本物だった。小さな旅館がほぼ貸し切りになる大所帯で押し掛けたのだが、事前の細かな質問や確認、家族ごとの事情に応じたさまざまな注文、急な人数の変更など臨機応変に応じてくれた。館内は清掃が行き届き、小さなことに気を配る接客は実に温かく心地よかった▼宿を離れる際、女将さんに厚く感謝すると、笑顔でさらりと「サービス業ですから」。いえいえ、ここまでして下さるところはめったにありませんよ。(悠)