カテゴリー別記事: ぞうき林

双眼鏡事情

 鳥の声音に聞きほれ、車を止めて小道を歩く。小さな双眼鏡を手に鳴き声の主を探す。繁茂する緑にまぎれて、ウグイスの姿をようやく見つけたら、すぐ逃げられた。のん気な人間が来たものよと、あちらからはおそらく丸見えなのだろう▼夕方のことである。双眼鏡をのぞきながら、さて、ここで警察官が自分のことを見かけたら、どんな対応になるのかと、頭をよぎった。双眼鏡を手にした男に対し、「何をしているのですか」と話しかける。「鳥を眺めています」「どんな鳥なの」「ウグイスです」「それはそれは」▼と、今ならそんなところ。散歩する人どうしのあいさつ程度か。でも、今後は変わってゆくかもしれない。国会法務委員会の大臣答弁で、共謀罪の準備行為を判断する一例に、双眼鏡の所持が挙がった。とんちんかんな答弁だと一笑に付したいが、残した印象は強い▼組織犯罪処罰法の改正案が可決濃厚だ。成立したら、くだんの会話も職務質問に早変わりするのか。通りすがりの人に「双眼鏡を持った怪しい人がいる」と、通報されたりするのか。「そんな大げさな」と笑ってすませたいのだが、最悪の事態を想定するのが大震災後の教訓▼鳥を眺める穏やかな時間くらい、確保したいもの。(

スマホ老眼

 「ずいぶん遠いねえ」「そんなに離すのか?」と、笑われることが多くなった。老眼である▼最初に感じたのは文庫本だった。目と文字の距離感は長年の感覚が腕に染みついているものだが、それがどうも狂ってきて、腕がへんに疲れた。遠くから近くに、その逆も、焦点を移すのに時間がかかるようにもなった▼視力が良くない人には「今さら何を言ってるんだ」と一笑される話だと思うが、これまで「見る」という行為に苦労したことがなかったので、近眼の方々のご苦労が少し分かった気もする▼ある日のみどり市議会で数えてみると、市長ら執行部の25人と市議20人の計45人のうち、メガネをしていないのはわずか4人。実に91%の人がメガネをしている。世の中そういうものなのか▼犯人はスマホに違いない。3年ほど前に使い始めた途端、老眼が一気に進んだ実感がある。スマホにしてから、入手できる情報量やちょっとした検索の速度は向上したが、その代わりに目が悪くなった。技術の進歩が肉体を退化させる典型的な現象が自分に起きている▼仕方なく最近、老眼鏡を買った。文字が鮮明に見えて楽だが、メガネを持ち歩くことが習慣になっておらず、きょうも自宅に忘れた。(

お邪魔します

 「自分の場所から動かないで『いつでも来てください』なんて言ってもだめなんだよね」。これは桐生市老人クラブ連合会理事の一人から聞いた言葉。活動のうえで心がけているという。「『お邪魔していいですか』って出向かないと人とのつながりはできないよ」。新規会員の開拓も地区同士の結びつきも、大切なことは同じ▼2005年、桐生・新里・黒保根の1市2村が合併し、その動きにならった団体があって、多くは旧桐生市内に取りまとめ機関を置いた。けれど合併前から続くそれぞれの団体は足場をきっちり固めて独自の活動してきて、それを「一つにします」というのは、難しい部分も多かったろう▼だからこそ、前述の心がけである。旧桐生市内の各地区はもちろん、新里・黒保根地区との連携強化は特に重点を置く。もともと別個だった組織を結び付けようと「とにかく出かけていく」。かしこまった場でなくていい。顔を合わせて話し、同じ釜の飯を食う。ただそれだけ。だけど実行するにはちょっとの手間としっかりした思いが必要となる▼合併から10年あまり。それぞれの地域特性、風習をそのままに生かしながら、今も新しいつながりを模索し続ける人たちがいるのだ。(

採用難の時代

 桐生市市民文化会館スカイホールが地元を中心とする30社のブースで埋まった。午後いっぱいで来場した学生の数は34人。出展企業数をかろうじて上回った。8日に開かれた桐生市合同企業面接会の様子だ▼参加した事業所は、普段の取材活動でお世話になっているところが大半。地域を代表する優良企業ばかりだ。仕事柄、それぞれの業容や特色、社風もおおよそは把握しているつもりだから、会場に身を置きながら頭に渦巻いた言葉は「もったいない」。そのひと言に尽きた▼超売り手市場といわれる昨今。4月の有効求人倍率は1・48倍で、バブル期の最高だった1・46倍を超え、43年ぶりの高水準に達している。学生の側にとっては、志望する企業や業種を絞って勝負しやすいのは利点だろう。面接会でも、目当ての会社だけを訪問して会場を後にする姿が散見された▼獲得合戦はしばらく続きそうだが、「中小も人材の質が重要になっている。世の中がいいときに、われわれが新卒の優良な人材を採るのは難しいから、無理にこだわらなくてもいい」と、中途を含めた通年採用に舵を切る地元企業も出始めた▼人は企業の礎。どう確保するか、手腕が問われる時代だ。(

切りどころ

 夜、家に帰り、裏口を開けると、ネコたちが出迎えてくれる。そのまま戸を開け放てば、風呂釜や洗濯機の置いてある土間へ。好奇心いっぱい、遊びたい盛りのネコたちである。クモの巣やほこりにまみれるのもいとわず、隙間に入ったり、上ったり下りたり▼満足して家に上がってくるまで待っていようと、薄明かりの下、ぼーっとあぐらをかいていたのだが、いつまでたっても上がってこない。よく見ると、何かを取り囲むように座り、その真ん中をじっと見つめ、たまに手を出している。どうやら、カマドウマがいるようだ。あの虫は湿っぽい所が好きだからなあ、ほどほどにね、と眺めつつ、思った。「あ、カマドウマって、かまど馬、か」▼確かに台所まわりにいるし、あのたくましい感じは馬っぽい。生まれてこのかた「カマ・ドウマ」と思っていたのだが、切り所でこんなに合点がいくとは▼そういえば昔、俳優の時任三郎さんはよく「トキ・ニンザブロウ」と呼び間違えられたという。それが人気ドラマ「古畑任三郎」の名前の元になったと聞いたことがある。これもまた、切り所だ▼「カマ・ドウマ」を漢字にすれば「鎌獰魔」とも書ける。鎌を持った獰猛な妖怪のようだ。うん、やはり「かまど馬」がよいな。(