カテゴリー別記事: ぞうき林

ほんのりと

 えびす講も終わったこのごろは、すっきり晴れた青空よりも薄曇りの方が、寒さがやわらいで、過ごしやすい。落ちきらない紅葉で、山々はもやの向こうにほんのりと赤く、目にも穏やか、冬の始まり▼何日か前、インターネットで見た紅葉の風景写真。大手新聞社のカメラマンによるものだと思うが、思わず「うわあ」と声を出しかかった。目にも鮮やかな紅葉、深い緑、青い渓流。文字にすると秋たけなわの絶景だが、その声は、逆の意味から出かかった言葉。「どぎつい」▼必要以上に赤い紅葉、それを強調するために必要以上に鮮やかな常緑樹、赤と緑のバランスが悪いせいで草津の湯釜のような強酸性を思わせる青白い川。こうなると、もう「作品」だな、と▼その昔、写真は「事実を写すもの」だった。昨今、デジタルデータになって、簡単に加工ができるようになり、簡単に“だませる”ようにもなった。写真が事実ではなくなった▼「インスタ映え」という言葉に代表されるように、見た目重視の傾向が強くなっている。行き着くところ、何でも極端。0か1かの二進法、それがデジタルの世界▼0と1の間には、よくよく見れば無限がある。その機微が楽しい。ほの赤いふるさとの山々に思った。(

歌舞伎ながめ

 ながめ余興場の魔力に、またまた引き込まれた。中村勘九郎さん七之助さん兄弟の錦秋特別公演千秋楽。周囲の山並みはまさに錦をまとい、菊花大会の残り香が立ち込めるなか、人気役者がすぐそこにいた。3回公演は完売御礼超満員で熱気むんむんだった▼歌舞伎を各地に届けようという中村屋の全国巡回公演も、ながめは初めて。天保6年完成の金毘羅大芝居金丸座をはじめ東座、加子母座、相生座、八千代座、内子座、中座嘉穂劇場と、江戸から明治大正期建造の芝居小屋は故18代中村勘三郎丈が襲名披露で回っており、父の思い出も濃いという▼最後のながめ余興場で「昭和の小屋に来た」と勘九郎さん。他と違って客席が椅子で、気密性が高いから顔に塗り込むびんつけ油も溶けやすいとか。電動の回り舞台や床暖房にも感心。小さい上に舞台と客席が近く、互いの呼吸で芝居をつくりあげていく面白さも▼もともとは芝居だけでなく浪曲や映画、歌謡ショーが連日開催された娯楽の殿堂だ。狂言芝居「棒しばり」は卓越した身体表現に大いに笑わせてもらい舞踊「藤娘」では七之助さんの妖美にくぎ付けになりつつ、写真撮影にも快感を覚えた。歌舞伎の再来を心待ちにしている。(

懐も深し赤城山

 赤城山の今季の初冠雪は19日だったという。21日朝、うっすらと白くなった姿に高ぶる気持ちを抑えながら撮影し、気象台に確認を求めて初めてそのことを知り、絶句した▼19日は冬型の気圧配置が強まり、真冬並みの寒気が流れ込んでくるため、日本海側を中心に雪が降るとのことだったのであさイチで確認したが、その兆候は見られなかったからだ▼にわかに信じがたく、気象台を疑ってしまった。すると、当地からは見えない渋川寄りの鈴ケ岳(1565メートル)や前橋寄りの鍋割山(1332メートル)の山頂付近に雪が降ったのだという。霧氷の可能性についても遠回しに聞いてみたが、そうではないとのことだった▼日本海側からの強い寒気は赤城山の西側に雪をもたらしたということらしいが、筆者の慣例で最高峰・黒檜山(1828メートル)や駒ケ岳(1685メートル)、長七郎山(1579メートル)、地蔵岳(1674メートル)といった当地寄りの山ばかりに気を取られていたのは不覚といえば不覚だった。しかし、本紙的に当地から見えない山を撮影してもあまり意味がない▼たかが初冠雪といえども一筋縄ではいかないもの。赤城山は裾野が長いだけではないことをあらためて思い知る。(

どっさりの秋

 数日前、前橋で初氷の報を聞いた。黒保根や梅田の氷のカーテンもこれから成長していくのだと思う▼そんな11月の第4週、取材先の足利市ではイベントが山盛りだ。四季を通じて観光誘客を進めているが、秋は23日から3、4日間。これでもかというほどあり、取材スケジュールの組み立てに頭を悩ます。史跡足利学校では伝統行事「釋奠」や学校さままつり、足利銘仙を着てまちなかを歩く楽ジュアリー、鑁阿寺では楽市楽座、市内全域をエリアにした文化財一斉公開、栗田美術館では三大陶器まつり、あしかがフラワーパークでは足利グルメグランプリ、加えて商業会や市民団体のイベントなどなど。あと2、3体、自分が欲しい▼文化財一斉公開はお気に入り。これは25、26日に実施。足利市内にさまざまな文化財があることを内外にPRすることなどが目的。今年は66カ所が対象で、各文化財にガイドがいて、足利織姫神社など4カ所では子どものガイドも聞ける。昨年は西宮町の足利ハリストス正教会に取材に行き、山下りん(1857~1939年)のイコンに感動した。あすまでだが、隣町の文化財を見てみるのも楽しいかと思う。場所などは足利市のホームページで確認できる。(

樹木のルール

 朝の空を覆っていた雨雲が消え、気持ちのいい青空が広がった日。赤信号で止まった車の運転席から、前方に見えるケヤキの大木を眺めていた。色づいた葉が次々と枝を離れ、はらはら舞い落ちている。そのリズムは一定で、密度もほぼ均等▼車の窓を開けてみたが、風はない。原因は、気温か、湿度か、雨上がりという天候の変化か。あるいは、人には感じ取れない秘密の合図があって、それを受け取った葉は順序よく枝を離れるようにと樹種ごとに定められたルールでもあるのか▼ネットでそのからくりを調べてみたくもなったのだが、それはだめだと思い直した。落としどころが見つかると、とたんに色あせた風景になってしまうのが目に見えていた。ある光景にひかれるのは、そこに影のようなものが存在しているからだ▼言い方を変えれば「謎」であり、「魔」なのかもしれない。謎や魔の正体が分かると人は安心するのだが同時に魅力も消えうせてしまう。見えない秘密のルールの存在におののきながら、なぜ、どうしてと、あれこれ想像をめぐらす方が楽しいし、光景も記憶に焼きつく▼まだしばらくは落葉の季節。色づいた紅葉の景色ともども、謎の答えをあれやこれやと探ってみたい。(