耳をすませば

 「最後の遺言としてお願いしたいことがあります」。桐生市市民文化会館で開かれた室内合奏団「アンサンブル“クヴェレ”」の第12回公演「ザ・ラストコンサート」で、元群馬交響楽団コンサートマスターの風岡優さんはそう冗談めかして語った。「演奏会は見るのではなく、聴いてほしい。どうか、目をつむって聴いてください」▼2005年、「若手の演奏家に演奏の場を提供したい」と、県内出身者を中心に結成された合奏団。この日のオープニング曲のパッヘルベル「カノンとジーグ」ではバイオリンやビオラの奏者が演奏しながらステージに登場する趣向をとったが「こんなことは初めて」と笑う。選曲も観客に優しくない、マニアックなものが多かったが、満員の会場を見ると、風岡さんの「純粋に音楽を楽しんでほしい」という思いは伝わったと感じた▼五感の中で圧倒的な情報量を占める「視覚」。日常生活は言わずもがな、さらに旅行に行けば写真を撮ることに熱心となり、かえって思い出を形作る情報を減らしている気がする▼取材ではなかなか難しいが、時に目をつむり、演奏に耳を傾けてみようか。名演奏だと眠くなってしまう難点もあるのだが。(野)

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