双眼鏡事情

 鳥の声音に聞きほれ、車を止めて小道を歩く。小さな双眼鏡を手に鳴き声の主を探す。繁茂する緑にまぎれて、ウグイスの姿をようやく見つけたら、すぐ逃げられた。のん気な人間が来たものよと、あちらからはおそらく丸見えなのだろう▼夕方のことである。双眼鏡をのぞきながら、さて、ここで警察官が自分のことを見かけたら、どんな対応になるのかと、頭をよぎった。双眼鏡を手にした男に対し、「何をしているのですか」と話しかける。「鳥を眺めています」「どんな鳥なの」「ウグイスです」「それはそれは」▼と、今ならそんなところ。散歩する人どうしのあいさつ程度か。でも、今後は変わってゆくかもしれない。国会法務委員会の大臣答弁で、共謀罪の準備行為を判断する一例に、双眼鏡の所持が挙がった。とんちんかんな答弁だと一笑に付したいが、残した印象は強い▼組織犯罪処罰法の改正案が可決濃厚だ。成立したら、くだんの会話も職務質問に早変わりするのか。通りすがりの人に「双眼鏡を持った怪しい人がいる」と、通報されたりするのか。「そんな大げさな」と笑ってすませたいのだが、最悪の事態を想定するのが大震災後の教訓▼鳥を眺める穏やかな時間くらい、確保したいもの。(

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