心のナンバー1

 旅先で印象に残った食べ物がある。遅れた飛行機を待つ空港で心細く食べたオートミール、定食屋のおじさんが釣った名前もわからない川魚の刺し身、植物園で食べたレトルトであろうにんじんすりおろしスープ▼心に残る出会いを「もう一度味わいたいな」と思っても、なかなか再現できない。そりゃそうだ。食べる心境が違う。オートミールのもってりした優しさはひとりぼっちの不安を和らげて、新鮮な刺し身には作り手の心遣いがあった▼さて先述の「にんじんスープ」。あれはちょっと別物で、場のなせる業だったと思う。さわやかに晴れた日、植物は豊かな色合いの日光に照らされて、空気の匂いはすっかり秋だった。そこに橙色した甘いにんじんスープである。旅先の味は現地でこそ最大に響くもの。思えば味は濃かったし冷めてしまっていたけれど、数年たった今も心のスープナンバー1だ▼この地域にもまた、生活と風土に合った食べ物があって、日々の暮らしを支えて体をつくってくれている。頬をなでる風の温度、空気の重さ、夜と朝に感じるしけった匂い、この目に映るすべての色。ひとつひとつ、地域の要素を感じて一皿を味わう。それだけでもう、十分だと思うのだ。(

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