見送る

 いつのころからか、習慣になっている。家族のだれかが自宅を出る際は、どんなに忙しくても手を止めて、必ず玄関まで出ていって見送る。通勤や通学はもちろん、近所の買い物でも同じだ▼忘れ物をしてすぐ戻ってきたとしても、同じように見送らないと気が済まない。家族で話題にしたこともない、親父の日常のささやかな習慣。もう十数年も続けている▼きっかけは、事件事故や自然災害に巻き込まれ、不慮の死を遂げた人をめぐる報道。「けさ見送った姿が最後になるとは…」。嘆き悲しむ遺族の声を何度も耳にして、後で悔いることのないようにと始めた。この十数年間で幼かったわが子たちも成長し、いつしか父と同じ習慣をするようになった▼神奈川県座間市で9人の遺体が見つかった事件で、殺害された邑楽町の高校1年の少女の両親が1月31日、容疑者再逮捕を受けてコメントを出した。娘を失った悲しみと後悔の念がつづられ、同じ高校生の娘をもつ親として胸がしめ付けられる▼ただ一つ、自分にとって救いだったことがある。少女は事件当日の朝、母親に見送られて自宅を出たという。娘を見送ったという記憶が、いつか両親の心の支えになってくれることを祈る。(

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