生物の本能

 最近、動物の登場する小説をよく読む。丹下健太氏の「猫の目犬の鼻」は、中学3年の主人公の女性が、高校、大学をへて社会人になるまでの10年間の生活ぶりを描く▼中学生のとき、彼女は近所で野良ネコに出合う。小説では主人公の、既視感を伴うかのような暮らしぶりとともに、このネコが出産して子どもを産み、その子が成長して子を産みと、代を重ねつつ、寿命で、あるいは事故で、ときに命を落としたりと、10年間のいのちの営みも淡々と綴られる▼この小説に限らず、登場人物たちがふと、彼らが意識しない場所でひっそりと暮らす動物や植物のことに思いを巡らすシーンに、最近はよく出くわす。こうした小説が増えているからというより、自分の意識の方が、そんな場面に引き寄せられているせいなのか▼難しい理屈に振り回されることなく、ネコは子どもを産み、育て、代を重ねる。接近しつつある台風18号の進路をパソコン画面で眺めながら、迫りくる悪天候やそれに伴う災害の予兆を、動物たちならばどう感じ、行動するのかと考える▼66年前の今ごろカスリーン台風が本州の南の太平洋を北上していた。本能を文化に置き換えた人間は、経験から学び、伝え、行動する。(け)

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