律義者のけじめ

 「まだオレは食べてないよ」。出前先で当たり前のように値段を告げたら、お客さんにそう怒られたことがあったという。老舗うどん店主による約半世紀前の回想▼おいしく食べてほしい思いより、お金をもらうほうが先になっていた反省。それ以来、お客さんから聞かれない限り、自分から先に値段を告げることはしなかったという▼6月30日で百数十年の歴史に幕を下ろした桐生市末広町のうどん店「山本屋本店」の3代目店主・臼井康祐さん(80)、光子さん(77)夫婦。その律儀な人柄と、昭和30年代の雰囲気をそのまま残す店構え。“昔ながらの”という言葉がしっくりくる人であり、店だった▼閉店理由は「体力の限界」だが、病気を患ったわけではない。“病気で倒れていつのまにか閉店”という不義理だけは避けたいとの思い。世話になった人にあいさつできるうちに、けじめをつけたかったと夫婦は笑顔で語った▼律義者の店じまいから一夜明け、国の根幹にかかわる節目の報道に思う。政府はきょう午後、憲法解釈を変更して集団的自衛権行使を容認する閣議決定をするという。選挙もなく、国民投票もなく、もちろん憲法改正もないまま。こちらのけじめはどうなっているのだろう。(針)

関連記事: