カイコの校旗

 ネパールの山道をバスに揺られていて、途中から乗ってきた男の子が気になった。なんだか大事そうに両手で囲っている。ふと目が合って、見せてくれたのは手のひらの上のカイコだった。照れくさそうに笑った彼は、あの1頭のカイコをどうしたろう▼そんな光景を思い出したのは、西小、神明小、黒保根小の3校を訪ねて養蚕の様子を取材したからだ。ふんを掃除し飼料を与え続け、上蔟が近くなると蔟を用意。繭ができたらひとつひとつ外し、毛羽取りをする。子どもたちの観察力はおもしろい▼5000年以上の養蚕の歴史で、カイコは完全に家畜化した。白い幼虫は野外では生存不可能で、飼われてエサが無くても逃げ出すことがない。ガになっても飛ぶことはできず、食べることもせず、交尾産卵したら死ぬ▼習性を利用した回転蔟の仕組みにも感心したが、人は桑の葉をとっては与え、お蚕さまの旺盛な食欲に懸命に奉仕したのだ。それがもはや、ようかん状の人工飼料で代替している▼桑を一度与えると、カイコは人工飼料を食べなくなるという。元はクワコの、最後の意地か。そして1500メートルもの糸を吐いて営繭した。それが各校の、絹の校旗になる。不思議なことである。(流)

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