キノコを見つめて

 芝生の丘に向かって、静かに手を合わせる。雨降りしきる早朝の原爆供養塔。広島市の平和記念公園の片隅にひっそりと、引き取り手のない約7万人の遺骨が眠る。丘の裏側に回ると、地面に何百、何千の小さなキノコが、肩寄せ合うように生えていた▼遠い世界のように思っていた広島を、身近に感じるようになったのは1年前。娘の進学の関係で初めて訪ねた。原爆ドームや慰霊碑、資料館…。公園内をひと通り見たつもりだったが、供養塔の存在は知らなかった▼教えてくれたのは、ジャーナリスト堀川恵子さんが5月に刊行したノンフィクション「原爆供養塔―忘れられた遺骨の70年」(文芸春秋)。供養塔の清掃を約40年毎日のように続けた被爆女性の半生から物語は始まる▼名前や住所の判明した遺骨が、なぜ供養塔にあるのか―。被爆女性の思いを受けて遺族を訪ね歩く著者。何万人という数字でくくられる犠牲者一人ひとりの人生を垣間見る▼広島原爆の残り火を伝える「平和の火」が、桐生市内に初めて分火される現場を16日に取材したばかり。そして1年ぶりの公園再訪。大きさも形も一本ずつ違うキノコを見つめながら、もう一度静かに手を合わせた。(針)

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