緊張感の失われた言葉

 東京都議選で自民党が歴史的大敗を喫し、都民ファーストが大躍進を遂げた。理由については連日の報道でさまざま報じられているが、結果として都議会は若返り、女性議員の数が大幅に増えた。こうした特徴はこれからの都政に間違いなく反映されるはずで、どんな政治が展開されるのか、都民ならずとも注目しないわけにはいかない。

 ところで、都議選の終盤、秋葉原の応援演説に駆け付けた安倍首相が気になる言葉を吐いていた。「こんな人たちに負けるわけにはいかない」。これが引っ掛かったまま頭から離れない。

 日々の暮らしの中で、私たちはさまざまな生きにくさを抱えている。ささやかな課題ならば自分や家族、あるいは仲間の助けを借りることで、どうにか解決できるのかもしれない。

 ただ、それだけでは解決できない課題にぶつかる場合もある。もっと大勢の協力が得られれば、克服できるかもしれない。それには多くの人の力を束ねるための仕掛けが必要になる。しかも、みんながそれなりに納得できる仕掛けである。

 選挙とは、こうした仕掛けの一つに他ならない。個人が持つ小さな権利をより集め、選挙によって選ばれた代表者に託す。無記名投票なので、投票者以外は誰が誰に投票したのか分からない。だからこそ、選ばれた者は自分の支持者に限らず、自分に票を投じなかった人や、選挙を棄権した人、選挙権のない人のために、つまりは広く国民のために、行動しなければならない。無記名投票が、こうした緊張感を担保しているわけだ。

 首相の「こんな人」発言に違和感を覚えるのは、その緊張感が失われているのではないかと思わせるからだ。自分を支持してくれる人と、そうでないと思われる人とを区別するような発言を、権力を信託された公人が発することへの驚きでもある。

 ときの権力者に対し、もの申す機会があり、伝えたいことがあるならば、できる範囲で意見を表明すればいい。それに対して相手がどんな態度をとるのか、これもまた、私たちが議員の資質や気持ちを推し量るうえで、大事な指標となるはずだ。

 日本国憲法の前文にあるように、「国政は、国民の厳粛な信託によるものであって、その権威は国民に由来」する。都議選で見えた首相の言動からは、あせりの色が読み取れた。都政以上に、国の政治が気になる。

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