魅力を引き出す人びと

 上毛電気鉄道にデハ101と呼ばれる車両がある。つくられたのは1928(昭和3)年、上毛電鉄の中央前橋―西桐生駅間が開業した年である。

 来年で満90歳を迎える近代化遺産のような車両なのだが、技術者たちの手でしっかりと整備されており、いまも現役。先日も上電友の会が車両を借り上げて、ビール列車として運行を企画。関東一円から集まった鉄道愛好家たちを楽しませた。

 きれいに磨き込まれた木製の床や壁面、天井で旋回する扇風機には懐かしさがある。参加者たちは対面式の長い座席に腰かけて、ビール片手にさっそく乾杯。通路中央に並んだ机の上には簡単なつまみが置かれ、それらを味わいながら、開け放った窓から流れ込む風に吹かれ、列車の揺れに身を任せれば、赤城山麓を駆け抜ける鉄道の旅が、ひと味違ったものになる。

 参加希望者は年々増えており、定員の35人は毎回満席。希望者の要望に応えたいのに、チケットが足りないのだと、主催者はうれしい悲鳴をもらす。

 当の鉄道会社に聞くと、デハの貸し切り運行は1往復10万円。利用者はさまざまで、この車両独特のモーター音に耳を傾ける熱烈な愛好者たちがいるかと思えば、ウエディング会場に使うといった人たちも。沿線住民にとって、公共交通とは日常の暮らしを支える大切な足なのだが、こうした非日常の楽しみ方がもっと増えてもいいのではないかと、満足そうなデハの乗客たちを見ながら思った。

 イベントが料理だとすれば、上毛電鉄のデハはいわば魅力的な“器”である。特別な器に何を盛り付けるのか。鉄道会社に限らず、さまざまな人がアイデアを持ち寄ることで、新しい料理が誕生する。それが鉄道の魅力アップにもつながる。

 考えてみれば、地域に存在する古い建造物もまた、特異な器に違いない。最近はリノベーションと呼ばれる手法で機能を付加し、これまでとは異なる活用法を探り、新たな施設として生まれ変わる事例も増えている。

 日々の暮らしになれてしまうと、器の持つ魅力やおもしろさに、持ち主が気づかないといった場合も多い。外部の人たちの働きかけが、そのことに気づかせてくれる場合も多いのだと、上毛電鉄の事例から学ぶことは多い。私たちがどこかで、こうしたヒントを与える側に回ることだって、きっとあるはずだ。

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