空っ風の食文化

 えびす講が終わり、冬型の気圧配置が強まると冬も本番。日本海で水分を補給した空気が新潟と群馬の県境の山々に雪を降らせ、乾燥した冷たい風となって北関東に吹き付ける。私たちになじみ深い空っ風である。

 以前、豪雪地帯で知られる新潟県魚沼市を真冬に訪れた際、旅館のおかみさんと交わしたあいさつが印象深い。雪が深いわりに寒さが厳しくないと印象を告げると、群馬県内で暮らしたことがあるというおかみさんは「群馬の冬は雪がなくて寒かった」と振り返った。体の周囲から湿気まで奪い去り、体感気温を下げる、空っ風の本領だ。

 こうした自然環境を、先人たちは巧みに利用しながら文化を形成してきた。この時期、農家の庭先などに登場する、白いすだれのようなダイコン干しの景色などは、その典型だろう。

 全国有数の日照時間と冷たく乾いた風が、ダイコンからしっかりと水分を抜きとり、しんなりとした干しダイコンを生み出す。これをぬかと塩で漬ければたくあんができる。仕事の合間、ぽりぽりとたくあんをかみながらお茶を飲み、ひとときの談話を楽しむ。そんな光景が、どこの家庭や仕事場にも当たり前のように広がっていた。

 この冬、干しダイコンの出来は思わしくないらしい。夏の日照不足、秋の大雨と、天候不順が重なり、ダイコンそのものの作柄がよくないのだという。

 桐生地方卸売市場の桐生青果によると、干しダイコンの取扱量はこの5年ほどでほぼ半減している。生産者の高齢化と後継者不足により、生産農家自体が減少していることが要因の一つ。もちろん、暮らしの中でお茶を飲みながらたくあんを食べるといった習慣がなくなりつつあることも一因だろう。減塩志向の時代でもある。需要自体が減少しているのは確かだ。

 食習慣が変われば、からだの状態もまた変化するはず。「漬物を食べることで、乳酸菌などからだに必要なものをいつの間にか取り込んでいたのでは」と、これは青果市場で耳にした声。ヨーグルトなどを食べずとも、地域の食文化の中に大事な要素が含まれていたわけだ。

 その土地の食文化は風土の一部である。地元でとれた野菜を自然環境に合わせて加工し、食べ、育ってきた私たちだ。暮らし方や食に対する価値観が変わることで、風土と人との関係も変わる。その行方が気になる。

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