ものづくりの要諦

 独自動車大手のフォルクスワーゲンが、米国で販売したディーゼルエンジン車に排ガス規制を不正に逃れるソフトウエアを搭載していたという。問題の車は世界で1100万台。波紋は地球規模で広がっている。

 ものづくりの技術、あるいは生産の仕組み、さらにはそこに血を通わせる哲学や思想において、世界の模範となってきたドイツ。その国の一流企業が排ガスの適合試験だけパスすればいいという一時しのぎ策を忍び込ませた。それが担当者だけの判断なのか、それとも経営陣も知っていたのか、そこがこれからの調査のポイントだが、長年培ってきた信頼を一気に失いかねない事態に対し、誰よりも腹立たしい思いで展開を見守っているのはおそらく、当のドイツの人々ではあるまいか。

 規制強化はものづくりにとっては宿命である。同時に、そこを乗り越えれば大きなビジネスチャンスとなり、何としてもライバルに先んじたいと、存亡をかけた戦いになっていく。そして、魔が差すのは大抵がこういうときであり、結果を急ぐあまりに判断を誤るのだ。

 自動車王ヘンリー・フォードは、成功に秘訣があるとするなら「他人の立場を理解し、自分の立場と同時に、他人の立場からも物事を見ることができる能力」だと説いている。フォードに限らず、多くの先人が表現は違えど同じことを言っているから、これはものづくりの要諦であると考えていいだろう。

 問題は、そういう態度でものづくりを進めても世の中が必ず受け入れてくれる保証がないという現実に直面して、それでもなお筋を通していくことに誇りがもてるかどうかだ。ここはやはり、私たち一人ひとりが普遍的な課題として受け止めるべき事柄であると、こう思いたい。

 人は誰しも失敗はしたくないが、しかし失敗が次の成功の糧となっていくこともまた、ものづくりの要諦である。

 一時しのぎはどこかで必ずボロが出る。そのツケが企業の根幹や暮らしを土台から揺るがす事態に発展した例は枚挙にいとまがないのも現実の姿だ。

 大切なのは、不正をきっぱり排除する強さを持ち、真正面から向き合った結果として失敗したことを決して責めることのない環境を企業風土の中に育てることであり、そして、挑戦のために費やした過程を正しく評価する目だと思うのである。

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