「松陰形見の短刀」前橋文学館で公開

 生糸の対米直輸出を図って明治9(1876)年に渡米した、水沼村(現桐生市黒保根町)出身の新井領一郎。ひ孫にあたるティム新井さん(57)=カリフォルニア在住=が受け継いで前橋市に寄託した短刀が、吉田松陰の形見として領一郎に託されたものであると判断され、3月31日から前橋文学館で公開されている。ティムさんは「短刀には松陰の魂がこもっている。160年の旅を一番よい方法で完結できたと思う」と語る。

 吉田松陰形見の短刀は、領一郎が渡米前、兄の星野長太郎とともに初代県令楫取素彦宅を訪ねた際、楫取の妻で松陰の妹の寿から贈られたもの。寿は「この品には兄の魂がこめられているのです、その魂は、兄の夢であった太平洋を越えることによってのみ、安らかに眠ることができるのです、と語った」とハル・松方・ライシャワー著「絹と武士」に記されている。

 ハルは領一郎の孫で、米国留学中に美しい短刀を見た。そして「領一郎はうやうやしく刀を拝受し、信頼に値する人間になることを誓った」と記す。短刀についての記録は同書のみで、1987年に翻訳出版され、この逸話が明らかになった。

 記述と似た短刀がティムさん宅にあることがわかったのは2015年。翌年に前橋公園に寿が短刀を贈る場面を表現した銅像が建立されたのを機に、寄託を受けた前橋市が専門家の協力を得て調査を進めてきた。短刀は室町時代に造られたやりを改造したもので、刀身約31センチ。「國益」の銘があり「絹と武士」が記す「國富」とは一致しないが、「鞘は金細工を施された漆塗り」で合致。「総合的に判断」し公開に踏み切った。

 ティムさんはハルの妹の種子が東京に創設した西町インターナショナルスクールで学び、山林管理のため黒保根に滞在したこともある。「短刀が流出せずに家にあってよかった。生きた歴史として日本の若者たちに刺激を与え、よりよい社会への変革の志が伝わればうれしい」と望んでいる。

 前橋文学館での公開は5月7日まで(午前9時~午後5時、水曜休館、ただし5月3日は開館)。

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